スマホから目を離す習慣が、家族や友人との対話を深める一歩に繋がった話
年齢を重ねるにつれて、デジタルデバイス、特にスマートフォンが生活の中心になっていると感じることはありませんでしょうか。便利な一方で、「気がつけばスマホを見ている」「誰かと一緒にいるのに、つい画面に目が行ってしまう」といった瞬間が増え、そのことに少し疲れてしまったり、大切な人との時間がどこか上の空になってしまったりすることに、寂しさを感じている方もいらっしゃるかもしれません。
昔からの友人とのやり取りはSNSやメッセージアプリが中心になり、直接顔を合わせて話す機会が減ったと感じる。家族との時間も、それぞれがスマホを手にしていると、以前のような温かい会話が少なくなった気がする。そんな悩みを抱え、「この状況を変えたい」と思い、デジタルデトックスを試みたものの、なかなか継続できなかった経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
かつて私もそうでした。スマホに多くの時間を費やし、身近な人との対話がどこか表面的になっているように感じていました。完璧なデジタルデトックスを目指して挫折した経験もあります。しかし、ある小さな習慣を取り入れてみたことから、驚くほど家族や友人との対話が深まり、人間関係が心地よいものに変わっていったのです。
気づかぬうちにスマホが対話から奪っていたもの
スマートフォンは私たちの生活を豊かにしてくれた素晴らしいツールです。しかし、その「いつでも繋がれる」「情報がすぐ手に入る」という特性が、知らず知らずのうちに、目の前の人との「対話の質」に影響を与えていることがあると気づきました。
例えば、家族や友人と一緒にいる時、LINEの通知が入ると、反射的に画面を見てしまうことはありませんでしょうか。あるいは、会話の途中で何か疑問に思うと、すぐにスマホで調べ物を始めてしまう。このような行動は、その瞬間、相手への意識や集中力を途切れさせてしまいます。
相手が一生懸命話してくれているのに、自分の目が画面に向かっている。あるいは、話を聞きながらも頭の中では別の情報検索を考えている。これでは、相手は「ちゃんと聞いてもらえていない」と感じてしまうかもしれませんし、自分自身も、相手の表情や声のトーンといった、言葉以外の「情報」を受け取ることができません。
結果として、会話は途切れがちになったり、表面的な情報のやり取りに終始したりしてしまい、お互いの気持ちや考えを深く理解し合う機会が失われてしまうのです。以前は、当たり前のようにあった、ちょっとした沈黙の中での温かい空気や、相手の様子を伺いながら言葉を選ぶといった、対話における大切な要素が、スマホの存在によって薄れてしまっていたことに気づきました。
無理なく始められた「スマホから目を離す小さな習慣」
完璧なデジタルデトックスはハードルが高いと感じていた私ですが、今回は「特定の状況で、意識的にスマホを見ない」という、無理のない小さな習慣から始めることにしました。以前の失敗経験から、「〇時間スマホを使わない」といった時間目標ではなく、「〇〇している時はスマホを置く」という行動目標の方が、私には合っていると考えたのです。
具体的には、以下のような習慣を試してみました。
- 家族との食事中は、テーブルの上にスマホを置かない: 食事に集中し、その日あった出来事を話す時間と決めました。
- 家族が帰宅した際や、友人・知人が家を訪ねてきた際は、まずスマホをカバンにしまうか、通知をオフにする: 迎える、あるいは迎えてもらう瞬間から、相手に意識を向けられるようにしました。
- 友人とカフェなどで会うときは、スマホをすぐに取り出さない: 待ち合わせまでの確認以外は、会話が終わるまで原則カバンに入れたままにしました。
- 寝る1時間前は、極力スマホを見ない: これは直接の対話とは少し離れますが、心穏やかに過ごすことで、翌日の心のゆとりにつながると感じたからです。
これらの習慣は、どれも「スマホを全く使わない」というものではありません。「この時間だけ」「この場所だけ」といった区切りがあり、失敗しても「また次からやろう」と気軽に再開できるものばかりです。完璧を目指すのではなく、少しずつ、できる範囲で取り組むことにしました。
小さな習慣が生んだ、温かい対話の変化
この「スマホから目を離す小さな習慣」を続けていくうちに、驚くような変化が起こり始めました。
まず、家族との食事中の会話が、以前よりもずっと豊かになったと感じています。テーブルにスマホがないだけで、自然と家族の顔を見る時間が増え、子どもが学校で経験した面白い出来事や、夫の仕事であった小さな発見など、これまでは「ふうん」と聞き流していたような話にも、耳を傾けられるようになりました。私が相槌を打ったり質問したりする回数が増えたことで、家族も安心して話してくれるようになったようです。以前は、すぐに会話が途切れてそれぞれがスマホを触り始めていましたが、今では笑い声が絶えない温かい時間になりました。
また、友人と直接会って話すときも、大きな変化がありました。スマホをカバンに入れたままにすることで、友人との会話に集中できるようになりました。以前は、話の最中に通知を気にしたり、「これってどうだっけ?」とすぐにスマホで検索したりしていましたが、それがなくなったことで、友人の話をじっくりと聞く時間が増えたのです。友人の表情や声のトーン、話の間の「間合い」から、言葉だけではない感情を受け取れるようになり、「ああ、この人は今こんな気持ちで話しているんだな」と、より深く相手を理解できるようになったと感じています。
ある時、友人から「あなたと話していると、すごく安心するの。きちんと私の話を聞いてくれるから」と言われ、その言葉が胸に響きました。スマホから目を離すという小さな習慣が、目の前の相手にしっかりと意識を向けることにつながり、それが人間関係の心地よさや信頼感を深める一歩になったのだと実感した瞬間でした。
対話を深めることは、自分自身の心を豊かにすること
デジタルとの距離を少し置くことで生まれた時間や心の余裕は、単に人間関係が良くなるだけでなく、自分自身の内面にも良い影響を与えてくれました。目の前の人に集中できるようになり、相手の言葉や感情に丁寧に向き合うようになったことで、私自身も穏やかな気持ちで過ごせる時間が増えたのです。
現代社会において、スマートフォンはなくてはならない便利なツールです。しかし、その使い方を少し見直すだけで、私たちにとって本当に大切な、家族や友人との温かい対話を取り戻すことができるのかもしれません。
完璧なデジタルデトックスを目指す必要はありません。まずは、食事中だけ、あるいは誰かと一緒にいる最初の15分だけなど、「スマホから目を離す小さな習慣」から始めてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、日々の対話を深め、あなたの人間関係をより豊かで心地よいものにしてくれることを願っています。